高分子材料の分子配向性がわかります
高分子材料は成形加工時に延伸を行うことで光学特性や機械特性を獲得します。その際の延伸温度や速度の違いが製品の特性に影響を与えるため、延伸によって生じる分子の配向性を評価することが製品開発にとって重要となります。今回、延伸倍率を変えたポリエチレンテレフタレート(PET)について偏光ラマン測定を行い、分子配向性を評価した事例を紹介します。偏光ラマン測定は、照射レーザーやラマン散乱の偏光方向を変えて測定を行うことで、分子の配向方向とその程度を評価することが可能な測定法です。
延伸倍率の異なるPETフィルムの配向性評価
図1に無延伸PETと4倍延伸PETの偏光ラマンスペクトル(延伸方向に対して平行および垂直偏光測定を実施)を示します。4倍延伸PETでは偏光方向によって芳香族C=C(1616cm-1付近)とC=O(1727cm-1)のピーク強度が異なります。そこで、PETの配向性を評価するため、ラマンピーク強度比[(平行偏光IC=C /IC=O)/ (垂直偏光IC=C /IC=O)]を算出しました。ここで、IC=C/IC=OはC=Oピークに対するC=Cピークの強度比を示します。ラマンピーク強度比が大きいほど配向度は高くなります。図2に、延伸倍率とラマンピーク強度比との関係を示します。この結果から、延伸倍率が高いほどPETの分子は延伸方向に配向していることが示唆されました。
このように、偏光ラマン測定を行うことにより、高分子材料の分子配向性を評価することが可能です。さらに、顕微ラマンは高空間分解能(約1µm)を有するため、微小部の分子配向や配向分布も評価可能です。
その他の応用
- カーボン材料の構造解析
- 深さ方向非破壊分析(コンフォーカル測定)を用いた埋没物の解析
- 微小異物の解析