有機薄膜の深さ方向分析が可能です
C60クラスターイオンをスパッタ源に用いたESCA(XPS)分析により、有機材料の深さ方向分析が実現できます。この表面分析技術を利用することで、有機材料を構成する元素および官能基についての深さ方向の濃度分布を得ることができます。ここでは、ポリエチレンテレフタレート(PET)上に成膜したフッ素薄膜およびポリエチレンオキサイド(PEO)/PS(ポリスチレン)多層薄膜を深さ方向分析した事例を紹介します。
フッ素系有機薄膜の深さ方向分析
フッ素系薄膜の深さ方向分析結果を図1に、深さ方向におけるC1sスペクトルのピークモンタージュを図2に示します。デプスプロファイルより、フッ素系薄膜は約40nm(ETFE換算値)の厚みで形成されていることが示唆されます。また、C1sスペクトルからフッ素系薄膜はC-C, CH2-CF2, CF2-CF, CF2など多種の結合が混在する化学組成であることがわかります。
ポリエチレンオキサイド(PEO)/ポリスチレン(PS)多層薄膜の深さ方向分析
膜構成がPEO/PS/PET基材〔図3〕の有機多層膜について深さ方向分析を行いました。図4に示す深さ方向におけるC1sスペクトルのピークモンタージュから、PET上には表面側からC-O結合のみの層、その下はC-C結合とπ-π*で構成される層の存在を確認できています。また、化学結合状態別のデプスプロファイルでは、各官能基の深さ方向分布を明らかにし、PEOとPSそしてPET基材を区別することが可能です〔図5〕。